Speaker
Takuma Suda
(東京工科大学)
Description
銀河系円盤から1 kpc高緯度に離れた位置に存在するO型星HD 93521は特異な高速度自転星として知られる。この星が銀河面内で形成され、自身の寿命が尽きる前にハローに移動しているという事実から、星同士の合体によって銀河円盤を飛び出したという仮説が提唱されている。HD 93521はその特殊な生い立ちから注目を集め、可視光やX線で様々な観測がなされているが、独立した多くの観測データはほぼすべてHD 93521が単独星であることを示している。
我々は、種族III星の対応天体としての大質量星と低質量星からなる連星、および重力波起源天体としての大質量星とコンパクト星からなる大質量星に着目してきた。これらの連星を検出するため、伴星が見えていない分光連星を視線速度の変動で探す探査を行ってきた。その中でも、HD 93521について、なゆた望遠鏡を用いた視線速度の探査を継続してきた。その結果、この星が周期20日程度の連星系に属することが分かった。
本講演では、HD 93521の起源と伴星の正体について議論する。導出した連星パラメターからは、伴星の質量が2太陽質量よりも大きいと見積もられる。この天体の素性や既存の観測データを精査し、伴星がコンパクト星、特にブラックホールである可能性について議論する。