多くの恒星は、巨大な磁場の密集地帯である黒点や超高温の外層大気であるコロナを有し、フレアなど太陽に類似した磁気活動性を示す。また、統計的な性質の比較から、これらには共通した磁気流体力学的メカニズムが働いていることが示唆されている。恒星を空間分解してその詳細を理解することは現状の望遠鏡では困難であるが、反対に、太陽を空間分解せずあたかも「星のように」観測することで、恒星を理解する一里塚とすることも可能である。このような観測手法は「Sun-as-a-star」と呼ばれ、近年の太陽恒星比較研究において盛んに用いらている。本講演では最新のSun-as-a-star研究を議論し、恒星磁気活動に対する理解の最前線を紹介する。合わせて、JAXAの推進する次期太陽観測衛星「SOLAR-C」のミッション概要や科学目標を紹介し、太陽恒星比較研究の将来像を展望する。
M型矮星のフレアでは、Hα線の輝線輪郭における赤方偏移および青方偏移の非対称性がしばしば観測される (e.g., Notsu et al. 2023)。これらの非対称性はフレアに伴う噴出現象を示唆している可能性があるが、①高時間分解能での測光分光同時観測例の不足と、②非対称性の統計的解析の欠如により、その起源に関する理解は未だ限定的である。
本研究では、活動的なM型矮星YZ CMiを対象に、京都大学せいめい望遠鏡を用いた可視分光とTESS衛星での可視測光による同時観測を行った。その結果、27例のフレアを検出し、そのうち8例でHα線の顕著な非対称性(5例が赤方偏移、3例が青方偏移)が確認された。
統計的解析の結果、Hα線の非対称性を示すフレアの発生頻度は自転の位相に対する依存性があり、巨大黒点の見える位相で頻発する傾向が確認された。また、白色光で顕著な増光を示すフレア(白色光フレア)は、そうでないフレア(非白色光フレア)と比べ非対称性を示す頻度が高い傾向が確認された。これらの観測結果は、M型矮星のフレアにおけるHα線の非対称性の起源を理解する上で、新たな洞察を提供する。
恒星フレアにおけるエネルギー解放が、各波長の放射とプロミネンス噴出等のプラズマの運動にどのような割合で分配されているのか、観測的に調査された例は少ない。また、長年恒星フレアの広帯域スペクトルモデルとして考えられてきた9000 − 10000 K の黒体放射が観測結果と整合しないことも指摘され始めている (e.g., Kowalski et al. 2019)。本研究では、M型星EV Lacに対し、NICER、Swift、TESS、なゆた望遠鏡によるX線、紫外線、可視光同時観測を2022年10月24-27日の4晩実施した。その結果、10月25日21時30分ごろに3.4 × 10^32 erg を白色光で解放するフレアの多波長観測に成功した。本フレアには、Hα 線でのフレアピークから約 1 時間後に −100 km/s 程度の青方偏移成分が現れる、白色光の増光時には3 分ほどの緩やかな増光と 1 分ほど の急激な増光の二段階が観測される、などの特徴が確認された。本発表では、エネルギー分配や広帯域スペクトルの観点から、上記のイベントの詳細を報告する。
突発的な恒星フレアの現場においては、X線放射の主成分となるT ∼10^7−8 Kの衝突電離平衡(CIE)プラズマ
に加え、非平衡プラズマの発生が予想される。しかし、その観測的な存在証拠は乏しい。天球上のどこで発生す
るか予測できない突発的なフレアを捕捉し、詳細解析することが単一の装置でできないことが一因にあげられる。
我々は2017年6月に開始した「MANGA (MAXI and NICER Ground Alert)」プロジェクトでこの困難を克服する
ことに成功した。これは、低感度だが広視野を持つ全天X線監視装置MAXIで検出した突発天体を、
狭視野ながら高統計X線観測ができるNICER装置で即時追観測するシステムである。
本研究では、MANGAの代表的な成功例である、RSCVn型連星おひつじ座UX星(UX Ari)が2020年8月
17 日に起こしたフレアイベントを扱う。MAXIによる検出の約90分後、NICERで初めてフレアピーク以前か
ら観測を行うことに成功し、十分減衰するまで5日間ほど継続的に観測できた。0.5-8 keV帯域において、ピー
ク時のX線光度は2×10^33 erg s−1、フレア期間のX線放出エネルギーは∼10^38 ergであった。Fe XXV Heα
およびFe XXVI Lyα輝線の強度比の変動を調べることで、非平衡電離プラズマの可能性について検証した。
X線スペクトルはフレア全体でCIEプラズマモデルと整合していたが、フレアのフラックス上昇段階では、CIEから
外れたIonizingプラズマモデルでもスペクトルを説明できた。また、フレアループのサイズを3 × 10^11 cm、
ピーク電子密度を約4 × 10^10 cm^−3と推定した。
2022年11月7日に中国の広視野軟X 線撮像望遠鏡LEIAがX線で増光した天体を発見した。この天体の位置はROSATでX線が検出されたK型巨星HD251108 = 2RXS J060415.1+124554と矛盾しないことから、この天体がRS CVn型連星であり、スーパーフレアを起こしてX線で明るくなったと考えられている(ATel #15748など)。この天体の視線速度測定し連星系のパラメーターを決めるために、せいめい望遠鏡に搭載されたGAOES-RVとなゆた望遠鏡に搭載されたMALLSを用いて、可視光高分散分光観測を行った結果を報告する。
前主系列星は年齢とともに自転周期が変化する. 古典的Tタウリ型星は約10 日で, 弱輝線Tタウリ型星は約3 日で自転する. 前主系列星の自転の変化については, 星が重力収縮しスピンアップするという説, 原始惑星系円盤からの質量降着が星をスピンアップさせるという説, 原始惑星系円盤が消失しスピンアップするという説(star-disk interaction)が提唱されてきた. star-disk interactions説によると, 光学的に厚い円盤を持つ古典的Tタウリ型星では, 星の磁場は円盤内縁(公転周期が数日)に接続し, 自転にブレーキをかけると考えられている. 円盤が古くなって消滅すると, 磁場も消滅する. その結果, 弱輝線Tタウリ型星は古典的Tタウリ型星よりも速く自転すると言われている.
本研究では前主系列星188 天体に対して,TESSデータから自転周期を測定した. そのうち56 天体は突発的な増光を示すことが分かった. このような天体はスピンアップ中の前主系列星の45%を占めた. またVLT/UVES, X-Shooterの可視光高分散スペクトルより, スピンアップ中の天体の中には円盤を原因とする連続光成分の超過を持つものがあることが分かった. すなわち, スピンアップ中の天体には原始惑星系円盤を持ち, そこからの質量降着により突発的な増光を示すものがある. これは"star-disk interaction"説と矛盾する. 前主系列星がまだ原始惑星系円盤を持つ間に, 質量降着によって角運動量を得て, 自転が速まると考えられる.
ベテルギウスの種々の変光周期の中で最も長い2200日の周期をベテルギウスの基本脈動だとみなすと,その半径はおよそ1300太陽半径であることが推測される.さらに,観測に基づく光度範囲と有効温度範囲と進化モデルを比較すると,ベテルギウスの中心部の状態は,炭素燃焼段階の末期であることが推測される.
AGB星は, 大質量星に比して数が多く、宇宙における核種合成において、炭素や中性子捕獲元素の生成・放出、また、宇宙の化学進化の基盤となる dust に関してはその主要な供給源としての役割を担っている。しかし、AGB 星の進化の実態、とりわけ、進化の最後については、これまでの研究にもかかわらず、未だ、合理的は明らかになっていない。
本研究では、AGB星の最終段階であるミラ型星の脈動と距離推定による絶対光度の決定等の観測的成果を踏まえて、AGB星における最終進化の形態について、解明した。特に、AGB星の進化の最後を飾るとされる質量放出と惑星状星雲の形成機構については、その新たな描像を紹介するとともに、その自己重力熱力学系の進化の特性との関連についても議論する。
本発表ではスペクトル情報とタイミング情報を同時にモデル化することにより、ブラックホール連星(BHB)の新しいデータ解析手法を紹介する。本研究の根幹をなす統計モデルである状態空間モデルは代表的な時系列モデリングの1つであり、観測モデルとシステムモデルの2つのモデルで時系列を記述する。システムモデルは状態変数の時間変化の様子を、観測モデルはその状態変数の関数として観測変数が得られるとしてモデル化する。本研究では、状態変数にエネルギースペクトルの成分の変動、観測変数にバンドごとのカウントレートの変動を対応させることでエネルギースペクトルの情報を組み込んだ時系列モデリングが達成している。状態変数の推定によって、これまで得ることのできなかったエネルギースペクトル成分の時間変動を推定することが可能となる。発表ではこの手法をBHBである MAXI J1820+070 に適用した結果と得られる知見を紹介する。
殆どの脈動変光星は超低周波領域において,周波数に逆比例するパワースペクトルを持つ.このいわゆる1/f揺らぎ(ピンクノイズ)の起源として,多数の対流領域が協同して作る波のうなり(振幅変調)であるとするモデルを提案する.そのもっとも簡単なものとして,ローレンツモデルを多数連結した,いわば多気筒エンジンモデルを構築する.そして,このモデルが1/f揺らぎを再現することを示す.時間が許せば,この1/f揺らぎがブラックホール・ディスク系や太陽フレアにも見られ,共鳴に由来するうなりとして説明できることも示す.
質量比は、接触連星において重要なパラメータのひとつだが、その分光値の取得や測光データを用いた推定には手間がかかる。本研究では、接触食連星の光度曲線の数値微分を利用し、その質量比を簡便に推定する方法を考案した。講演では、推定方法を紹介するとともに、従来の測光質量比の推定の際に問題となる第三体の影響について考察する。また、我々の推定法がうまく機能する背景についても議論する。
食変光星V491 Draは明るさが14等級と暗いため観測数が少なく,周期はAAVSOでは0.334801日,Mt.Suhora天文台では約2倍の0.6697662日と異なる周期が発表されている。周期決定のため仙台市天文台の1.3mひとみ望遠鏡で観測したところ0.6697662日となることがわかった。
活動的アルゴル系U Cepは、主極小時の皆既食継続時間が星周物質の
影響により変化することが1970年代から知られている。一方で、Olson(1978)は食外の光度曲線も(例えばIバンドで最大0.2等ほど)変動することを検出し、その原因は主星表面の低温斑点であることを示唆した。
Olson以降、詳細な食外の測光観測は報告がない。我々は、TESSによる光度曲線を調査した結果、周期10数分から数時間、強度変化最大10%程度の不規則な変動を見いだした。
これらの変動は調査した5つのセクターともに副極小の後が、その前より明らかに著しい。副極小も明らかに非対称である。
講演では、これらの変動の原因についても考察したい。
銀河系円盤から1 kpc高緯度に離れた位置に存在するO型星HD 93521は特異な高速度自転星として知られる。この星が銀河面内で形成され、自身の寿命が尽きる前にハローに移動しているという事実から、星同士の合体によって銀河円盤を飛び出したという仮説が提唱されている。HD 93521はその特殊な生い立ちから注目を集め、可視光やX線で様々な観測がなされているが、独立した多くの観測データはほぼすべてHD 93521が単独星であることを示している。
我々は、種族III星の対応天体としての大質量星と低質量星からなる連星、および重力波起源天体としての大質量星とコンパクト星からなる大質量星に着目してきた。これらの連星を検出するため、伴星が見えていない分光連星を視線速度の変動で探す探査を行ってきた。その中でも、HD 93521について、なゆた望遠鏡を用いた視線速度の探査を継続してきた。その結果、この星が周期20日程度の連星系に属することが分かった。
本講演では、HD 93521の起源と伴星の正体について議論する。導出した連星パラメターからは、伴星の質量が2太陽質量よりも大きいと見積もられる。この天体の素性や既存の観測データを精査し、伴星がコンパクト星、特にブラックホールである可能性について議論する。
近年、位置天文衛星Gaiaのデータを基にして、ブラックホールや中性子星のどちらか1つを持つコンパクト連星の探査が活発になっている。特にGaiaの感度が高いのは、質量降着を伴わずX線で暗い「不活性」なコンパクト連星である。我々はGaiaのデータからコンパクト連星候補を絞り込み、せいめい望遠鏡GAOES-RVやなゆた望遠鏡MALLSを用いてコンパクト連星の探査を行っている。本講演では、その経過と科学的意義について紹介する。
X 線連星は、星質量ブラックホールあるいは中性子星と通常の恒星からなる近接連星系であり、相手の恒星からコンパクト天体へのガス降着により、X線などで明るく輝く。また、そのガスの一部は外向きに加速され、ジェットや円盤風(降着円盤に沿った噴出流)として噴き出すが、その噴出機構や周囲に与える影響の程度はよくわかっていない。X 線連星の降着円盤は主に X 線から可視光帯域の電磁波を放射し、ジェットは主に電波から可視光で輝く。また、円盤風は X 線帯域などで青方偏移した吸収線として観測される。したがって、X線連星の降着・噴出流の完全理解のためには、増光中に多波長で観測を行うことが必須である。 2023 年 9 月に打ち上げられたX線衛星 XRISM に搭載された新技術検出器Resolve は、従来より1桁優れたエネルギー分解能を実現する。Resolveを用いることで、円盤風の詳細な吸収線形状が初めて分解され、円盤風の噴出機構を解明し、周囲への影響を定量的に見積もることが可能になると期待される。また、多波長観測を組み合わせることで、ジェットの構造や、降着円盤の構造と円盤風・ジェット噴出の関係性を理解できると期待される。本講演では、これまでの観測結果をふまえつつ、XRISM によるX線精密分光と多波長連携観測の展望について述べる。
GAOES-RVは、2003年からぐんま天文台1.5m望遠鏡で運用されてきた可視高分散分光器GAOESに、視線速度精密測定機能を追加してせいめい望遠鏡に移設したものである。2023年7月にせいめい望遠鏡初の可視高分散分光器として稼働を始め、ドップラー法による新しい系外惑星探索や、系外惑星の特徴づけ、恒星大気の化学組成調査、突発現象のフォローアップなど、早くも多様な観測研究に利用されている。本講演では、GAOES-RVの現在の性能と、同分光器で展開されている特に系外惑星関連の研究について紹介する。
GK Perは、強磁場白色矮星と低質量星からなる近接連星系で、白色矮星の周囲に降着円盤を持つ。1901年に新星爆発を起こしたのち、数年おきに矮新星アウトバーストを起こすようになった天体である。アウトバーストの原因は、水素の部分電離に伴う降着円盤の熱不安定であると考えられている。降着円盤は主に可視光で観測され、円盤内縁からの降着ガスが白色矮星の磁力線に沿って自由落下する際の衝撃波加熱により、白色矮星表面に根付いた高温プラズマである降着柱からX線が放射される。
私達は、この天体の2023年のアウトバースト中、X 線望遠鏡NICERとNuSTAR衛星によるX線観測とTomo-e Gozenによる可視光高速観測を行った。アウトバースト終了間際の広帯域のX線スペクトルからは、白色矮星表面からのおよそ60 eVの黒体放射成分と、降着柱由来の最高温度およそ50 keVの制動放射するプラズマ成分が検出された。また、周期解析の結果、X線ライトカーブから330秒と351秒(白色矮星の自転周期)の2つの周期信号、可視光ライトカーブから約5700秒の準周期信号を発見した。X線と可視光の完全同時ライトカーブの相関は弱く、X 線と可視光の変動の起源は異なる可能性が高い。X線の2つの周期信号の振幅は高エネルギー側ほど小さく、視線方向に対してX線放射領域を隠す、円盤内縁付近のガス塊や密度の高い降着ガスなどの吸収体の存在が示唆される。また、5700秒の周期は330秒と351 秒の会合周期であり、白色矮星や歪んだ構造を持つ円盤内縁部からの放射による降着円盤の照射効果の周期変化を反映していると考えられる。本講演では、これらの観測結果を紹介し、X線と可視光の周期信号の起源を考察する。
矮新星アウトバーストの頻度の長期的な変化についてはあまり議論されることがなく、理論的にも質量降着率を一定とみなしてその解釈が進められてきた歴史がある。当研究では長期的な光度曲線の変化からこのような頻度に変動が見られることを示し、分光観測による輝線の変化との関係についても議論する予定である。
降着円盤を形成する激変星の可視連続光は円盤成分が支配的であるが,しばしば回転する降着円盤由来では再現不可な細く強い輝線成分が観測される。
本研究では,円盤風を考慮した矮新星アウトバーストのスペクトル合成計算を実施し,円盤風によるこれらの輝線の説明可能性を調査した。
Circinus X-1(以下、Cir X-1) は、軌道周期16.6日の楕円軌道を持つ中性子星連星である。この天体は非常に若く、初期の連星進化を理解する鍵となる。しかし、そのX線変動は複雑であり、統一的な解釈には至っていない。我々は、NICERのX線望遠鏡を用いて、軌道全体をカバーする高頻度(~4時間毎)観測をはじめて行った。X線光度の変動の特徴から、stable期、dip期、flaring期に分割し、解析を行なった。X線スペクトルは、部分的に覆われた多温度黒体放射と、光電離プラズマによる放射からなるモデルで説明できた。特に部分吸収体の変動が観測スペクトルに影響を及ぼすと考えられる。Mg、Si、S、Feの高階電離輝線が軌道周期を通じて観測された。特に、Feの輝線はdip期からflaring期への遷移の過程で吸収線に変化した。光電離度は軌道周期を通じて元素ごとに安定しており、光電離プラズマが軌道に安定して存在することが示唆された。我々は解析結果を踏まえ、方位角に依存して局在する物質が視線方向を遮ることによって、多温度黒体放射が部分的に遮られるというモデルを提案した。
Be星(γCas 型変光星) は、光度階級がIII-VのB(一部OまたはA) 型星のうち、過去に一度でも水素の輝線がみられた星として定義される。近年のシミュレーションにより、円盤が中心天体からの質量減少に対応して膨張すること、質量減少が止まると、徐々に消滅することなどが報告されている(Carciofi et al. 2013)。しかし、中心星からの円盤放出メカニズムや、円盤への角運動量輸送機構など分かっていないことも多い。講演者は 2018年9月より、勤務校の天文台での低分散分光観測で、水素輝線等価幅に加え、観測の報告が少ないバルマー逓減率 (本研究ではHαとHβ輝線等価幅の比) の分光モニター観測を行っている。その結果、バルマー逓減率に有意な変動を示す Be星(δ Sco、π Aqrなど) が確認され、それぞれの伴星が近星点を通過する前で減少傾向、通過後で増加傾向であることが分かった。この現象は円盤の有効温度が近星点前で高く、後で低くなることを示唆している。さらに、Be星スペクトルデータベース (BeSS) に登録されている高分散分光データの解析結果より、δ Scoの Hα、Hβ 輝線の裾の幅 (FWHM) が近星点から離れると減少し、近づくと増加する傾向が見られた。バルマー逓減率やFWHMの変動は、伴星が未発見のBe星 ψ Perでは見られなかった。これらの結果より、Be星の円盤への角運動量輸送機構に、伴星が影響を与えている可能性が大きい。
OB星をドナーとする大質量X線連星系では,ドナーからライン加速過程により噴き出した星風がコンパクト天体に降着し,X線で輝く.
しかし,コンパクト天体からのX線による星風物資の電離は,ライン加速過程を阻害するので,質量降着により星風速度は変化する.
星風速度が大きいと質量降着しにくくなるため,X線による電離は質量降着過程に負のフィードバックを及ぼす可能性がある.
ここではトイモデルを用いた数値計算により,コンパクト天体への降着率および星風物質の電離度が自発的に振動することを示す.
結果として生じる間欠的な質量降着は,短時間のX線変動の原因となり得る.
大質量X線連星の約半数を占めるBe/X線連星は、星周円盤を持つBe星と中性子星の連星系である。Be/X線連星は、時折X線アウトバーストを起こすが、大部分の期間はX線光度の低い静穏状態にある。アウトバースト期と静穏期のX線光度は2桁程度(かそれ以上)異なるが、このような大きなギャップが生じる原因としてプロペラ効果(高速自転する中性子星の磁気圏が降着流を弾き飛ばす効果)が一般的に受け入れられている。しかし、Be/X線連星には自転の遅い中性子星を持つものもあり、それらの系でもプロペラ効果によりアウトバースト期と静穏期のX線光度に大きな違いが生じると考えるのは不合理である。
本講演では、Be/X線連星系においてBe星の恒星風が中性子星への降着流に及ぼす影響を考察する。そして、その結果をパラメータのよく分かっている系に適用し、静穏状態を引き起こす機構がプロペラ効果であるグループと恒星風であるグループが存在することを示す。
近年大規模な突発天体サーベイが行われるようになり、超新星爆発は非常に多様性に富んだ現象であることが明らかになってきている。超新星爆発の多様性の多くは恒星進化の多様性に由来する。中でも連星系進化の多様性が超新星爆発の多様性に大きく寄与していることが明らかになってきている。本講演では、近年明らかになってきた超新星爆発の多様性を紹介し、連星系での進化がどのようにして超新星爆発の多様性を生み出しているのかを紹介する。
「明るい恒星だと思っていたのに、実は新星でした」という天体に
ついて。
新星の光度曲線はさまざまだが、だいたいは増光が検出され、光度が
ピークに達したあとで、ゆっくり暗くなるようなものが多い。遅い新星
(slow novae)ではピークがいくつもあったりするが、その後はゆっくり
減光する。これまでに出現した中で、最もゆっくりした新星は PU Vul
で、増光に2年、ピークは平らで8年の長きにわたり、観測家が
「これはいったい新星なのだろうか否か」と議論しているうちに、
輝線があらわれ、減光とともに紫外線も検出され、ようやく新星だと
確定した。今回発表する CN Cha は、平らなピークが3年続き、その後
ゆっくり減光した。PU Vul に続く2番目の flat peak な新星である。
実はこの天体は、鋭いピークをもつ新星と、新星とは思えないほど長い
進化をする新星の中間に位置する、理論的にとても重要なものなのである。観測家のみなさん、このような新星があることを心の隅にいれて、
ぜひとも3番目の flat peakな新星をみつけてください。
2013年に爆発した古典新星 V339 Del は V=4.4等まで明るくなったこともあり、多くの波長で観測され、詳細な光度曲線が得られている。特に、ギガエレクトロンボルトのガンマ線、超軟X線、UBVRI、赤外線などの波長で得られたもののほかに、[O III] および Hα の狭バンド、b および y の中間バンドの光度曲線も詳しく観測されている。これらをすべて、私たちの古典新星爆発モデル&衝撃波モデルで都合よく説明できることを示す。特に、ダストによるといわれる V 光度曲線の 1.5 等の減光と超軟X線が100日程度共存していることの理由を明らかにしたい。これは、ダストはX線によりすぐに破壊されるので、長く共存することはないのではといわれているからである。
新星とは、白色矮星と低温星の近接連星系にて、白色矮星表面へ降着したガスの熱核反応の暴走で発生する爆発現象である。可視光では突発的な増光として観測され、その後、徐々に減光する。減光中、一時的に可視光度が一定になる(平坦期)系が存在し、U Sco 1999年爆発から、平坦期は白色矮星に照射された降着円盤に由来するもので、円盤半径は静穏期より大きくL1点まで達する可能性が示唆された。しかし、これを補強する降着円盤の形成過程を追った観測は殆どない。
我々は、U Sco 2022年爆発に関し、VSNET を通じて国際共同可視連続測光観測を行った。平坦期は可視極大期から約14日後に始まり、約24日後に終了した。また、減光中に得られた食のプロファイルから食幅を見積もり、降着円盤半径の時間変化を求めた。平坦期の円盤半径はL1点近くまで達するが、平坦期を終えると急激にtidal truncation 半径まで縮小することが初めて確認された。本講演では、これらの結果から新星爆発による降着円盤の構造変化について議論する。
近年の超新星の観測により、一部の超新星親星は重力崩壊の瞬間に高密度な星周物質を保持していると信じられている。これは大質量星の、恒星風以外のメカニズムで駆動される質量放出機構の存在を示唆しており、従来は単独星の活動に由来する機構が考案されてきた。一方我々は、大質量星の多くは連星を組んでいることに注目し、連星間の質量輸送に付随する形での質量放出機構を考案した。具体的には、恒星進化計算によりII型超新星を再現する連星の進化を解き、主星から引き剥がされたガスの一部が連星系を脱出すると仮定して星周物質の構造を構築した。その結果、ロッシュローブオーバーフローの開始とともに質量輸送率が増加すること、それに伴い星周物質はシェル状またはクリフ状といった多様な構造を実現することを見出した。このような構造は超新星の発生後からおよそ数年後の観測でトレースできるうえ、過去の超新星観測で確かめられている星周物質の兆候と整合する可能性がある。本研究は、超新星親星の星周物質形成における連星相互作用の重要性を提案している。
主に野辺山45m電波望遠鏡を用いて5年間継続してきた「宇宙の噴水」天体に付随するH2O及びSiOメーザー源の監視観測のまとめについて発表する。この様な進化終末期に見られる恒星ジェットは100年以内に進化・退化すると考えられ、実際、それに伴って新たなH2Oメーザー源(高速視線速度成分)の出現や消滅が見られた。ジェットの発達に伴いジェットに引きずられて加速していくガス塊の集団の存在も確認できた。SiOメーザー源を新たに1天体で発見した。今後、できる限りこれらの天体の監視観測を継続するべく、国際的な連携を模索している。
AGB 星や赤色超巨星のような長周期変光星の星表面付近で確認されているSiOメーザーの微小スポットは星を中心としてリング状に分布しており、その微小スポットやリングサイズの挙動をモニターすることにより星表面付近の質量放出が調べられている。しかし、星周SiOメーザーの支配的な励起機構が、衝撃波伝播に伴って起こる衝突励起なのか、 それとも星からの赤外線による放射励起なのかという基本的な情報がいまだにわかっていないため、先行研究から、星の赤外線放射が最も強力な変光位相φ=0.1–0.2でのみ放射励起が起こり、それ以外の変光位相では衝突励起が支配的になると予想されており、この切り替わりは異なる遷移のSiOメーザーをVLBIモニター観測することによって捉えることができると期待されている。我々はこの切り替わりを把握するために、長周期変光星BX Camに付随するSiO v=1,2,3 J=1→0, v=1 J=2→1, v=1 J=3→2メーザーに対して、EAVNを使ったモニター観測を約3変光周期分行った。 v=1,2 J=1→0メーザー最初の0.6変光周期分のデータ解析を行ったところ、=0.19で放射励起が起こった証拠が見つかり、それ以外の位相では衝突励起が支配的だと思われるメーザーの挙動が確認された。